ライダー レース

44キッズクロスでの”成長”

モトクロスにおいてレースは、ライダーの成長が明確に現れる舞台でもあります。その中でも、”将来海外へ羽ばたくキッズライダーを育てる”ことを目標に、全日本モトクロス選手権IA1トップライダーの小島庸平氏とダートフリークが手を組み始動した「44キッズクロス」は、キッズライダーが実戦経験を積み、次のステップへと進むための重要な舞台となっています。

大会を通してどんな成長を感じるのか? 今回は「成長」をテーマに、44キッズクロスに参戦する/していたライダーとそのご家族にお話を聞きました。

卒業生に聞く「成長」。44キッズクロスから選手権で活躍するライダーへ

「考える力がついて、意識が変わった」、親子ともに成長をするきっかけに。水野零埜選手

水野零埜選手は2022年から2年間最上位クラスとなるJr.Aクラス(現85/150クラス)に参戦し、2023年には激しいトップ争いを制して見事チャンピオンを獲得したライダーです。卒業後は中部モトクロス選手権と近畿モトクロス選手権ノービスクラスに出場し、中部選手権ではランキング3位、近畿選手権ではシリーズチャンピオンを獲得するなど、ステップアップした先でも活躍を続けています。

そんな水野選手が44キッズクロスに出場していた理由は中部エリアで開催される貴重なレースだったからだそう。水野選手のお父さんは「ジュニアクラスの大会は関東や関西には多く存在しますが、中部ではその機会が少ないんです。レースでしか得られない経験はたくさんあるので、少しでも多くその経験を積めるようにという想いがありました」と語ります。

実際に水野選手は、44キッズクロスを通してかなり鍛えられたそう。

「選手権で行われるジュニアクロスは通常10分+1周の2ヒート制というレースフォーマットですが、44キッズクロスは15分+1周の3ヒート制なんです。15分+1周のレースを戦い抜くには体力やメンタルの強さが求められて、44キッズクロスを通してその両方がかなり鍛えられました。総合順位の入れ替わりも多くて、チャンピオンを獲るためには1レースごとのポイントがかなり重要で、その重みを実感しながらレースをしていました」

また、レースを通じて成長したのはライダー本人だけではなく、サポートする家族の意識も変化していったと言います。お父さんは、「レースを通して自分の指導方法の良し悪しも感じるようになり、以前はライディングフォームやブレーキングなどを細かく指示していましたが、今は細かいことは言わず、本人に考えさせるようになりました」と話します。実際に指導方法を変えたことで、水野選手は自らの走りを分析し、最適なスタイルを見つける力を身につけたと言います。

「速く走るためにどうすればいいのか、これまで考えていなかった細かな部分まで自分で考えたり研究して走るようになりました。地方選手権のノービスクラスに昇格してからは、ジュニアクロスの時は勝てなかった相手と競り合えるようになって、今の結果があるのはこの考え方の変化が大きいと思います」(水野選手)

また、水野選手は44キッズクロスの中でも最年長のライダーで、多くのライダーから憧れのライダーとして慕われています。「最年長であり、85/150クラスという最上位のクラスにいたこともあって、一番の見本になるライダーとして見られることが多くありました。そこでちゃんと見本になれるように、しっかりと考えて周りのキッズライダーたちと接することを意識するようにしました」と語り、ライダーとしての意識の変化も成長に繋がったそうです。

水野選手は今年中部モトクロス選手権でナショナルクラスに昇格。全国大会優勝、さらには海外挑戦を目標に今シーズンを戦います。「日本と海外のレースではトップスピードのレンジが異なるので、海外というより高いレベルで戦うために今シーズン頑張っていきたいです」と意気込みを語りました。

「チャンピオンを逃したくない」、レースへの意識の変化が今に繋がる。大久保梨子選手

大久保梨子選手は開催初年度の2022年に、最上位クラスとなるJr.Aクラス(現85/150クラス)へフル参戦。連勝を重ね、見事初代チャンピオンを勝ち取りました。卒業後は中部モトクロス選手権へと舞台を移し、125ccマシンに乗り換えてノービスクラスに参戦。さらに全日本モトクロス選手権レディースクラスにも挑戦を始めました。

大久保選手が参戦を決めた理由は「キッズライダーが増えてほしい」「モトクロスという競技の魅力をもっと広めたい」という思いが、44キッズクロスとリンクしていたからだそう。大久保選手は当時を振り返り、「最初は緊張してばかりで、レースに対する苦手意識がありました。ただ、44キッズクロスでレース経験を重ねていくうちに、緊張が和らいで、冷静にスタートラインに立てるようになりました」とレースへの緊張を克服したと言います。

また、お父さん視点でも大久保選手の変化は明らかだったそうで、「元々は競い合うことがあまり得意ではない子だと思っていました。ただ、僕自身モトクロスのレースに出てIBクラスまで昇格した過去があって、モトクロスの楽しさはレースにあると思ったので娘をレースに出場させていました。競うことに消極的な部分もありましたが、レース経験を積んで、彼女自身にも勝ちたいという気持ちが強くなってきたと感じたのがすごく嬉しかったです」

1年間の参戦の中で、大久保選手にとって特に印象に残っているレースを聞くと、炎天下の中行われた最終戦だったと言います。

「暑さで体調が崩れてしまい、かなり過酷なレースでした。正直出場をやめようという話もありましたが、地方選手権でも最終戦でのトラブルで優勝を逃して、すごく悔しかったので、ここでチャンピオンを逃したくないという気持ちや勝ちへのこだわりが強くなって、最後まで走りきる決断をしました。そこでの意識の変化は大きかったですね。結果チャンピオンになることができて、今でも思い出深いレースです」

大久保選手は2025年に全日本モトクロス選手権レディースクラスへフル参戦することを発表しています。「これまでの経験を生かして、シングルフィニッシュを目指したいです。そして、家族みんなと喜びを分かち合いたい」と意気込みます。

現役44ライダーに聞く「成長」

「走りに自信がついた」。全員揃ってクラストップの齋藤三兄弟

写真左から齋藤輪選手、極選手、稀選手

輪選手

極選手

44キッズクロス開催1年目から出場し、各クラスでその存在感を示しているのが齋藤三兄弟です。一番上の輪(わく)選手は今年で13歳、極(きわ)選手は9歳、稀(まれ)選手は7歳です。輪選手は2024年に85/150クラスで、極選手はスーパー65クラスでチャンピオンを獲得。さらに稀選手はスーパー50クラスランキング2位と、兄弟揃って各クラスのトップライダーとして活躍を続けています。

稀選手

お父さんにお話を聞くと、レース経験が1人1人の自信につながっていると感じるとのこと。

「キッズクロスに出る理由は、他のライダーの見本になるという意味があります。親としては3人がそれぞれ結果を見せて、いつか輪や極、稀のようになりたいと思ってもらえるライダーになってほしいと思っています。

今はメインで中部モトクロス選手権に出場していて、それに合わせて44キッズクロスに出場しています。44キッズクロスは選手権とは違い、レース数が多い。スタートラインに並ぶ緊張感やバトルする感覚はレースに出ないとわからないし身につかないので、44キッズクロスを通してレース慣れができていると感じています。実際に3人の走りを見ていると、レースに慣れてきたことで自信を持って走ることができているなと思います。走りに自信がついたという点が、一番の成長ですね」

44キッズクロスでの経験が自信になり、中部モトクロス選手権へとさらにレベルの高い場所で発揮される、良い循環が生まれていました。なお、2024年の中部モトクロス選手権では輪選手がジュニアクロスでランキング2位、極選手がキッズ65クラス、稀選手がチャイルドクロスでチャンピオンを獲得しています。

2025年はスーパー65クラスに稀選手、85/150クラスに極選手と輪選手が参戦。さらなる活躍に注目です。

「ライバルと出会い、競う楽しさを知った」。TORROTを乗りこなす小田楷葦選手

小田楷葦(おだ かい)選手は初年度からMOTO-Eクラスとファースト50クラスのダブルエントリーで参戦。周りのライダーにもまれながらも懸命に走っていた姿が印象的でしたが、徐々に上位へ食い込む走りを見せ、2025年開幕戦では堂々の2位獲得。レースを通しての成長についてお父さんに話を聞くと、

「44キッズクロスでは礼儀だったり、ライダー自身の意識が成長したなと思います。例えば、44キッズクロスは雰囲気が良い意味でゆるくて、他のライダーとも話やすい空気感があります。なので、会場で会ったライダーや親御さんにしっかり挨拶したり、そこから仲良くなって仲間ができたりと、コミュニケーション力が身についたなと、見ていて思います。

また、ファーストとスーパーというように、レベルに合わせてクラス分けがされているので、同じレベルのライダーと競い合えるんです。そこで負けたくないと思うライバルが出てくるので、本人もすごくやる気を持って走っています。ライバルとの出会いは一番刺激になっていて、切磋琢磨しながら、レースやバイクで走る楽しさを知って、もっと走りたいと言ってくれる姿に成長を感じます」とのこと。

なお、楷葦選手に今のライバルを聞くと、「ライバルは篠田昇冴くん」だそう。篠田選手は2025年シーズン開幕戦のMOTO-Eクラスで2ヒートともに優勝したライダーです。今後のトップ争いを通して、さらなる成長が期待できるでしょう。

「各々がモトクロスの楽しさを見つけてレースを楽しむようになった」。広野姉弟

あかり選手(#121)

写真左下:広野康輝選手、写真右:あかり選手

広野康輝選手とあかり選手は1年目から姉弟で参戦しています。44キッズクロス開催1年目を振り返ると、康輝選手は当時最年少でした。あかり選手がMOTO-Eクラス、康輝選手はリミテッド50クラスに出場。初めは走りに緊張が見られましたが、レースを重ねていくごとに康輝選手はスピードを身につけ、MOTO-Eクラスとリミテッド50クラスでトップ争いを繰り広げるほどにまで成長しています。また、あかり選手は3年目にエンジョイクラスが設立された後、TT-R110に乗ってレースを楽しむ方向へシフト。お父さんに話を聞くと、各々違う楽しさを見つけて成長し続けていると言います。

康輝選手

「お姉ちゃんは、初めはMOTO-Eクラスに出ていましたが、エンジョイクラスができてからこっちで走りたいと自分から言ってきたことがすごく印象に残っています。65・110クラスもありますが、ファンバイクでの参戦が多いエンジョイクラスの方が怖くないということでした。レースを通して自分のレベルを感じて、その中で自分なりにモトクロスの楽しさを見つける。彼女の中でそういう風に変化してきたのは一つの成長だなと思います。一方、弟の方はレースを通して勝ちたいという想いが強くなってきたなと感じます。また、元々電動バイクからスタートしていたこともあって、今乗っている65ccのエンジンバイクは全然乗りこなせていませんでした。最初はエンジンをかけるのにも一苦労していましたが、練習とレースを通して段々と慣れてきて、今では1人で起こせるし、65ccの方が楽しいと言っていて、乗りこなしていく姿に成長をすごく感じています。

あとは、44キッズクロスではレース経験を積むことができるだけでなく、友達や仲間を作れたという点もすごく意味があることだなと思っています。一緒に練習することで、刺激を受けて、それが成長につながっていると感じます。レースにも慣れてきて、全日本モトクロス選手権のチャイルドクロスにもスポット参戦するようになりました」

それぞれが44キッズクロスを通してモトクロスの楽しさを見つけ、自分のペースで成長を続ける。楽しい気持ちを糧にする2人の成長がますます楽しみです。

「自分で考えてレースを進めるようになった」。前田親子

写真左:前田光琉(みつる)選手、写真右:望選手

光琉選手

2022年から参戦し始めた前田光琉(みつる)選手(写真左)。初めはファースト50クラスに出場し、現在は110ccマシンに乗り換えて65・110クラスとエンジョイクラスに参戦しています。一方、お父さんの望選手はファンバイク(当時はミニモトと呼ばれてました)ブームの第一人者とも言える方で、ファンバイクをイベントで盛り上げてきたライダー。今でもファンバイクに乗って楽しみたいという想いから親子揃って44キッズクロスに出場しています。

望選手

そんな中、44キッズクロスを通して光琉選手の成長を聞くと、

「自分で自然に考えて走ってほしいという思いもあって、基本のフォームやレースの仕方は教えますが、あとは彼の自主性に任せています。44キッズクロスのレースを見ていると、自分で考えてこんなこともできるようになったんだ、とその成長に驚くことが多々あります。例えば、他のライダーと競った時に次のコーナーでインに行くのかアウトに行くのか考えて走る場面があります。その時に、以前は遅いライダーの後ろについていましたが、今は『あ、今考えてインに入ったな』とその思考がわかる走りをするようになったと思います。どこを走ったら抜くことができるのかを考えてしっかり走れるようになっていて、レースの進め方が身についてきているなと思います。いつかは親子対決をして、僕を抜いてもらうことが目標です(笑)」

今回のインタビューを通して、44キッズクロスでの経験がライダーの成長に繋がっていることがわかりました。レースを通じて、ライダーはもちろん、サポートする家族も共に成長をする。44キッズクロスで得た学びと成長が、今後どのように活かされていくのか、彼らの活躍に引き続き注目していきたいです。

  • この記事を書いた人

アニマルハウス

世界でも稀な「オフロードバイクで生きていく」会社アニマルハウス。林道ツーリング、モトクロス、エンデューロ、ラリー、みんな大好物です。

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