「このままではエンデューロの後継者がいなくなる」――。そんな危機感から生まれたGAMMy Racing。チーム代表の大神智樹選手は、エンデューロ競技の未来を見据えた取り組みを続けています。選手育成から運営人材の確保まで、エンデューロ競技の持続可能な発展を目指す彼らの挑戦に迫りました
危機感から生まれたチーム、「普及・育成・強化」の三角形
トライアル、そして高校時代にはサッカーのインターハイに出場するなど多くのスポーツをたしなんできた大神智樹選手。幼少時代からたくさんのコーチに教わってきたからこそ、キッズやジュニア世代に対して同じ目線から語りかけるような指導者としての姿勢は評価を集めつつあります。2020年、大神選手は自らも世界選手権などに挑戦する道を模索する中で、「GAMMy with Young Guns」として若手ライダーの育成を始めました。
チームを発足することになったきっかけは、中日本エンデューロ選手権のアドバイザーとして関わるなかで、競技運営の担い手不足という課題に直面したこと。「今後、若手が運営に携わらなければ、このままでは競技が残らない。50〜60代の方々が運営している現状から、若い世代が参入するような仕組みが必要だと感じました」
エンデューロ競技を継続させるためには、ライダーとして若手を育成するだけでなく、競技運営を担う人材の育成も不可欠。そこで2023年から始動したGAMMy Racingは、選手育成と運営人材の確保という二つの柱で活動を始めました。
チーム運営の指針となっているのは「普及・育成・強化」のエコシステムです。Jリーグのクラブチーム組織がモデルになっています。
「トップチームと育成チームがあり、それを支えるファンがいる。ファンがいることで資金が集まり、育成活動ができる。そこからトップ選手が生まれ、その選手に憧れた若者が集まるという循環を作りたいんです。小さなところから波紋を広げていけば、大きなムーブメントにつながると信じています。キッズ世代にも、競技の楽しさと同時に将来的に競技を支える側としての視点も持ってもらえるよう意識しています」
現在のGAMMy Racingは12名のメンバーで構成され、年齢は14歳から41歳までと幅広い世代が在籍しています。チームは2つのカテゴリー『Beta GAMMy Racing』としてBetaからのサポートを受けレース活動に重点を置くトップカテゴリーと、選手としてだけでは無く運営人材として共通認識をもってエンデューロ競技に積極的に関わる『GAMMy Racig』、22歳以下の『Young Guns』という若手育成部門に分けられています。
手本にすべき世界を見せる
大神選手が若手育成で最初に取り組んだのは、「世界を見せる」ことでした。2020年、まだジュニア世代だった保坂修一選手と青木琥珀選手を世界選手権に同行させたのです。
「日本のエンデューロと世界のレベルには大きな差があります。いくら言葉で説明しても、実際に現場を見ないと理解できないことがたくさんあるんです。日本のエンデューロだと、モトクロス出身のライダーが速い。しかし、世界選手権では単に速いだけでは通用しません。テクニカルなセクションでの技術や走破力、そして何より多様なコンディションに対応できる総合力が求められます。自分の目で世界のレベルを見ることが、目標設定の第一歩になるんです」
この経験が実を結び、2022年には保坂選手がISDEフランス大会とドイツのエンデューロGPに出場し、大神選手自身も現場でサポートしました。
「保坂選手が世界選手権にチャレンジできたのは、Young Gunsプロジェクト最初の大きな成果です。彼自身も、親元の千葉を離れて大阪で競技に打ち込める環境へと飛び込んでいきましたが、世界を見た経験は大きな財産になったと思います。2025年7月にはYoung Guns第2弾として、橋本大喜と藤岡丈瑠をウェールズのエンデューロGPに連れていき観戦する予定です。橋本は小学3年生から6年間もの間、特に長く指導し続けてきました。彼らには実際に世界を見て、目標をより具体的にイメージしてもらいたい。17歳になればエンデューロGPのユースクラスに参加できますから、親御さんや学校とも相談しながら、将来的にはぜひそのクラスに挑戦してほしいですね」
チームウェアで一体感を創出
2025年、GAMMy Racingはちょっとした変化を遂げました。DFGとのコラボレーションによるオリジナルウェアで全員揃えることにしたのです。
「もっとフィット感がいいウエアはないだろうか、と常々探していたのですが、去年、試しにDFGのWORXを使ってみたらすごく良かったんです。ダートフリークの担当の方から『オリジナルウェアを作ってみませんか?』という提案をいただきました。デザイナーさんからいただいた紫の案が思っていた以上に良くて、デザインは即決しました。下部に黒のグラデーションを入れたのは、比較的手に入りやすい黒いパンツと合わせやすくするためです。DFGのウエアの中でもハイエンドなWORXなので、上下を合わせると少し高価。下だけエントリーモデルのSOLIDパンツの黒にすれば、安くコーディネイトできます。
今年は有力なハードエンデューロライダー、大津崇博が加入したこともあり、ウェアを統一することでチームとしての一体感も狙いました。チーム員でなくても『ジャージだけ買えばGAMMy Racingの一員になれる』というコンセプトで、チームの輪を広げる工夫もしています」
2024年シーズン――目に見える成果
「普及・育成・強化」の理念を掲げるGAMMy Racingですが、2024年シーズンは目に見える成果が現れ始めています。
大神選手自身は選手として全日本エンデューロ選手権で最高4位・年間7位という成績を残し、XTテストでは1番時計をシーズン通算最多回数獲得しています。ハードエンデューロでも最高4位を記録しました。さらに初挑戦となったエルズベルグロデオでも予選を通過、CP9まで到達して201位という結果を残しています。
「エルズベルグは貴重な経験でした。事前には『走破力>スピード』と考えていましたが、実際に行ってみると、スピード要素が予想以上に強かった。トップライダーたちの持っている速さが想像以上でした。この経験で2025年シーズンに取り組むべき方向性が明確になりました」
チームメンバーも各カテゴリーで活躍しています。
「JNCCのCOMP-Bクラスでは橋本大輝がシリーズランキング5位を獲得。彼は最年少ながら5戦中2勝を挙げ、来シーズンはCOMP-Aへ昇格します。中日本エンデューロ選手権では山中和之(IBクラス)が3位、山本壮大と原一平(NAクラス)がそれぞれ2位・3位で、IBへ昇格。田中亜実選手は全日本エンデューロのウィメンズクラスでシリーズランキング2位、プラザ阪下では両日とも優勝しました」
普及活動の面でも成果が表れています。大神選手が主催する中日本エンデューロ選手権イオックスアローザ大会では、前年より17台増の55台が参加。特にジュニアの参加が全日本を含め3年連続で最多となりました。
「これは中日本選手権の各主催者様の普及活動の効果も大きいです。全ラウンドでの出走者数平均も増加しており、少しずつ成果が出始めていると感じています。3年連続の開催ができたのも、会場や地域、関係者の皆さんのおかげです」
背面にGAMMY Racingの紫のウエアは今後も表彰台だけでなく、レース運営や関係者の間にどんどん浸食していくことでしょう。DFGのオリジナルウエアが活動の一助になれば、光栄です。