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速さを左右するのは視界? オフロード走行における「見る力」

オフロード走行において、「視界」は一瞬でも失うと走行に支障をきたし、安全面やレースでの勝敗に大きく影響するほど重要です。今回はそんな視界を守るゴーグルのこだわり、走行中の視線の意識、視界を失わないための備えなど、オフロードライダーにとっての「見る力」の重要性に迫ります。また、記事の後半では2025年の新型ゴーグル3種類の特徴も紹介しているため、ゴーグル選びの参考にしてみてください。

トップライダーに聞く、オフロード走行における視界の重要性

オフロードライダーにとって、視界は路面状況を把握し、どう走るかを判断する情報源になります。特にコンマ1秒でスピードを競い合うレースシーンでは、走行時の判断スピードがタイムに繋がり、勝敗に大きく影響します。今回は全日本モトクロス選手権を走るライダー2人にインタビュー。走行中の視界、路面の見方など、そのテクニックを聞いてみました。

視線は常に先を見る

今回はダートフリークのサポートライダーである、IA1ライダーの⼤倉由揮選手とIA2ライダーの鴨田翔選手にそのこだわりを聞きました。走行中はどこを見て走っているのでしょうか。大倉選手に聞くと、「走行中の視線は、すぐ下の路面を見るのではなく、数メートル先に向けるようにしています。 路面のギャップやわだちを確認することはライン取りの判断に繋がります。ただ、それら一つ一つを見るというよりは、この先がどうなっているかを全体的に捉えるイメージでいます。実際、路面をじっと見ている時って自分は上手く走れていないんです。視線が下に向いていると先がわからないこともありスピードが落ちてしまい、判断が遅れるし、リズムも崩れます。轍が深かったり、ラインが複雑な時ほど怖くて下を見がちなのですが、狙いすぎず広く視野を保つことを大切にしています」とのこと。その先にある動きをイメージしながら視線を送ることで、自然とスムーズなラインが描けるようになるといいます。

動体視力という武器

動きのあるものを確実に目で捉える「動体視力」という能力はライダーにとって大きなの武器の一つです。これについて大倉選手は 「昔一度、”スポーツビジョン測定”という動体視力を測る検査を受けたことがあります。これは視覚からの情報を脳で捉えて、身体が反応するまでのスピードを測るもので、当時はトップアスリートレベルと言われたことを覚えています。動体視力はスタートで飛び出す瞬発力に生かされるのはもちろんのこと、前を走るライダーの動きを見てラインを変えたり、落ちている石など路面の荒れなどに瞬時に対応するために必要です。攻めるためだけでなく、危険を回避するためにも不可欠な能力だと思っていて、目で見て反応するまでの速さが、自分のスピードにも繋がってくると思います」と分析します。

モトクロスのようなスポーツには必須の能力のため、実際に全日本モトクロス選手権のトップライダーを見ると、動体視力や集中力を鍛えるために、レース前に落としたものをキャッチするという動きをルーティン化しているライダーも見られます。

ゴーグルのこだわりとレンズの選び方

また、走行時の視界の広さはライダーたちがこだわるポイントの一つです。最近ではFOXのメインゴーグルがモデルチェンジをして装着時の視界がさらに広くなるよう変更されるなど、製品としても重視している点の一つです。大倉選手はFOXのゴーグルの中でもハイエンドモデルとなる「ビューゴーグル」を使用。

「ゴーグルを選ぶ上で最も重視しているのは視界の広さです。ここ数年愛用しているFOXのビューゴーグルは、レンズ部分が広く、ゴーグルの縁も気にならないため、装着した時に視界が狭まる感じもないです。視野が広いと周りの状況を把握しやすく安心感があり、走りに集中できるためストレスフリーなんです。視界の狭いものも含めて様々なゴーグルを試してきましたが、やっぱり視界が広い方が自然と走りもリズム良くなりますね」と語ります。

さらに、フィット感も集中力につながると言います。「装着した時のフィット感にもこだわっています。自分の顔の形にぴったり合っていないと、泥や雨、ほこりが入ってきて視界が悪くなってしまうことがあります。風が入ってくるだけでも気になって集中できないので、試着をして、なるべく隙間なくフィットするものを選んでいます」

 

また、ゴーグルのレンズをどのタイプにするかという点も視界を確保するために重要なポイントです。ブランドによって取り扱っている種類は異なりますが、透明なクリアレンズ、グレーがかったスモークレンズ、オレンジや水色など色がついたカラーレンズ、外からの光を反射するミラーレンズがあり、どれを使えば良いか悩む方も多いでしょう。大倉選手に聞くと、使っているのは主に2種類のレンズとのこと。

「晴れている日はスモークレンズ、曇りや雨の日など太陽の光がそこまで無い日はクリアレンズを使っています。この2つが自分にとってはベストで、ずっと使っています。IB OPENクラスを走っていた時代は、レーススケジュールの都合上、西日がかなり強い時間帯にいつもレースをしていました。その時はスモークレンズよりも日の光を反射してくれるミラーレンズを使っていましたが、日陰に入ると一気に視界が暗くなってしまい、路面が見えづらくなるため、今では相当日差しが強い時以外はほとんど使いません。現在は西日に重なる時間帯でのレースはあまりないので、使う種類が限られてきた感じです」

一方、鴨田選手もレンズにこだわりがあるとのこと。

「レンズにはいろいろな種類がありますが、僕自身ミラー系はあまり好みではなく、クリア系のレンズ一択で練習もレースも行っています。今シーズンからAlpinestarsのゴーグルを使用していて、レンズも豊富な種類が揃っているのですが、中でも”アフターバーン”というレンズが気に入っています。このレンズは少し茶色がかっていて、クリアとスモークの中間のような色味です。晴れた日にはクリアレンズは眩しすぎることがあり、スモークレンズだと暗く感じていたのですが、アフターバーンは丁度その中間です。(2025年の)開幕戦のようなマディコンディションでも、砂埃がすごかった第2戦でも視界がクリアで、オールシーズン対応できる理想的なレンズですね」(鴨田)

マディコンディションでの視界の守り方

視界が一番奪われやすいのがマディコンディションです。泥がレンズにつかないようにする対策は、主にティアオフとロールオフの2種類があり、ライダーによってどちらを使うかは好みが分かれます。なお、ティアオフとは1枚のフィルムを複数枚重ねてレンズを保護するもの。ロールオフとは長さのある1枚のフィルムをリールで巻き取る構造のものです。

大倉選手に話を聞くと「僕は 雨・泥・砂埃、どんな時でも視界を守るためにゴーグルは外したくないので、レースではティアオフを3セットほど重ねるのが標準装備です。重ねる枚数が多すぎると視界が見えにくくなるリスクもあるのですが、レースの途中で無くなったという事態は絶対に起きて欲しくないので、多めにつけています。また、なるべく消費量を抑えたいので、ティアオフに泥がついても、隙間から見えるところを探して、もう見えなくて無理だとなるまでかなり粘って使っています」と、ティアオフを好んで使っているそう。

また、マディ対策として主流なロールオフについては「日本ではティアオフを使用していますが、海外ではロールオフが主流で、レースではそれしか使えないため使用していました。ティアオフだと、泥がついていたり風になびいていたりするとフィルムを剥がすために掴む部分がどこにあるのかわからなくなる時があります。その一瞬の迷いによってスピードが落ちてしまい、1~2秒のロスにつながることもあるので、ロールオフのようにリールがあって、引っ張る部分を確実に引けるという点は強みだと思います」と話し、どちらのメリットも感じているとのこと。

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ブランド別、2025年新型ゴーグルの特徴

2025年モデルのゴーグルを見ると、FOXとSCOTTがモデルチェンジを果たし、さらにAlpinestarsがブランドとして初めてゴーグルを発売するなど新作が豊富です。ここでは、注目が集まる各ブランド新型ゴーグルをピックアップ。それぞれの特徴をチェックして、自分に合った一本を見つけるための参考にしてください。

SCOTT

SCOTT
プロスペクト 2.0 AMP ゴーグル
価格:¥26,400 (税込)

SCOTTのハイエンドモデル「プロスペクト 2.0 AMP ゴーグル」が2025年モデルで改良されています。新たにクイックレンズリリースシステムが導入され、これによって4つのレンズロックピンを瞬時に解除できるようになりました。 レンズの脱着がこれまでよりも簡単になったのは嬉しいポイントです。

さらに、SCOTT独自のアンプリファイアーレンズ技術が標準装備されています。コントラストと視界の鮮明さを向上させ、地形の輪郭や変化をより明確に捉えることができるため、明瞭な視界を求めている方は一度試着して見るとその違いがわかるでしょう。

鼻部分は息がしやすい形に設計されているのもポイントです。

フレームはより広い視野を確保できるよう見直されています。スポンジはノースウェット3層フェイスフォームと呼ばれる、高い吸水性を持つマイクロファイバー層で構成され、汗が目元に垂れないように作られています。​

また、可動式アウトリガーによってヘルメットとのフィット感を向上させ、快適な装着感を実現。

FOX

FOX
メインゴーグル レーススペック
価格:¥8,250(税込)

FOXの2025年モデルの中で、「メインゴーグル」がモデルチェンジを果たしています。従来モデルよりも広いビューポートを採用し、視野がさらに広くなっています。また、 VLS(可変レンズシステム)を搭載。同一フレームで標準のLexanレンズと射出成形ポリカーボネートレンズの両方に対応可能で、ライダーは用途や好みに応じてレンズを交換することができます。

スポンジ部分はトリプルレイヤーフェイスフォームとフリースライナーを採用し、長時間の使用でも快適性を維持します。滑り止めシリコンストラップや、ティアオフレンズ対応のマウントも装備され、実用性が高められています。

Alpinestars

Alpinestars
SUPERTECH CORP GOGGLE
価格:¥21,890(税込)

Alpinestars初となるゴーグル「SUPERTECH CORP GOGGLE」。全日本モトクロス選手権で唯一同製品を使用している鴨田選手に、実際の使用感について聞いてみると「フィット感も良く、視界も広い。レンズも脱着しやすくて、ブランドとして初めて発売するとのことですが、ゴーグルとしてのクオリティの高さは他のブランドにも引けを取らないと思います」と評価しています。

レンズはワンタッチスライド式で外すことができるため脱着がしやすい仕様です。レンズはインジェクションレンズを採用。湾曲にレンズを成型しているため視界の歪みが少ないことが特徴です。厚さ0.9mmかつ平面の「レキサンレンズ」と比べると、インジェクションレンズ(プリカーブドレンズ)は1mmを超える極厚仕様です。厚さがある分、レンズ自体の硬度もあるため飛び石が当たっても割れにくい安心感があります。

スポンジも厚すぎず薄すぎず、フィット感があります。実際に鴨田選手は「2025年の全日本モトクロス選手権開幕戦のマディコンディションや第2戦の砂埃がゴーグルの中に入ってくることはなく、快適でした」と話しています。

ゴーグルは目を守るためだけでなく、突き詰めるとオフロードライディングにおける視線や視界に大きく影響するアイテムです。今回学んだ「見る」技術とゴーグルの特徴を参考に、自分なりのこだわりを見つけ、自分に合った一本を探してみてください。

  • この記事を書いた人

アニマルハウス

世界でも稀な「オフロードバイクで生きていく」会社アニマルハウス。林道ツーリング、モトクロス、エンデューロ、ラリー、みんな大好物です。

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