ダートフリークがサポートする全日本モトクロスライダー・吉田琉雲と、吉田が所属するBells Racing監督であり現役IAライダーの小島庸平。今回の対談では、2人の出会いや吉田がチームに加入したきっかけ、お互いの印象などについて語ってもらいました。
プロフィール
小島庸平(こじまようへい):元全日本モトクロス選手権IAチャンピオン。現在は若手ライダーの育成に力を入れ、全日本の舞台ではモトクロスチーム「Bells Racing(ベルズレーシング)」の監督を務めている。40代ながらも現役ライダーとして全日本モトクロス選手権にスポット参戦、2025年第5戦近畿大会では最高8位入賞と活躍した。
吉田琉雲(よしだるくも):2022年近畿モトクロス選手権ジュニアクロスで全ヒート優勝&チャンピオンを獲得。翌年も欠場したヒート以外全てで勝利を収め、2年連続でチャンピオンに輝き頭角を現す。2023年にナショナルクラスへ昇格し、同タイミングでBells Racingに加入。2024年に全日本モトクロス選手権IA2クラスデビューを果たすと、2025年の第5戦近畿大会で17歳という若さで初優勝を獲得した。
2人の出会い、Bells Racing所属のきっかけ

小島:元々琉雲のお父さんが関西地方でモトクロスをしていた選手で、コースで見かけていたりと存在は知っていました。それが今に繋がった感じですね。初めて琉雲と会ったのは鈴鹿のSocal MXというコースで、僕がまだバリバリ現役の時ですね。琉雲が小3くらいの時に85ccに乗っているのを見たのが最初ですかね。とはいえその当時何人もジュニアライダーがいたので、あくまでライダーのうちの1人という印象でした。
吉田:そうですね。小3です。僕も監督のことは小さい時から知ってはいたけど、そこまで関わりはなかったので、名前と存在だけ認知していたという感じです。 最初に会った時のことは覚えていないですね……。
小島:今でこそチームがあるから繋がりが深くなったけど、最初は会ったら挨拶をする程度だったかな。
Bells Racingに引き入れたきっかけもお父さんでしたね。当時は大城魁之輔や柳瀬大河が僕のチームから全日本に参戦している時で、柳瀬の下の代が琉雲という感じでした。近畿モトクロス選手権でジュニアクロスを走っていたのは知っていて、その活躍を見ていました。お父さんとは昔からBells Racingに入れさせてねという話をしていたわけではなく、琉雲がジュニアを終えてフルサイズマシンに乗り換えるタイミングで「ホンダに乗らせたい、Bells Racingで走らせたい」と言ってきてくれて。それがきっかけでした。
吉田:僕は正直流れに身を任せていたという感じだったので、チームに入るってなって、自然と加入した感覚です。
小島:琉雲が全日本モトクロス選手権で併催されたジュニアクロスでもぶっちぎって優勝していたので、これだったらフルサイズマシンに乗ってもいけるだろうなと見ていました。タイミングも合い、ナショナルクラスに昇格した際にうちに所属してもらいました。
吉田:チームに入って、トレーニングなど環境がこれまでとは違ったのですが、今はだいぶ慣れました。監督本人がめっちゃトレーニングしているので、僕も頑張っています。
小島:うちのチームは鈴鹿を拠点としていますが、みんなが鈴鹿にいるわけではなく、IA1クラスの大倉由揮は大阪、琉雲は奈良と少し離れています。昔のチームだとチーム拠点の近くにくるのが主流だったんですけど、それこそ琉雲はまだ免許もないし1人で行動するのも難しいので、全員鈴鹿に来いっていう環境にはなかなか作れないところがあります。私としては、チームはきっかけを与える存在という気持ちです。トレーニングの方針や方法を教えますが、やるかやらないかは結局個人に任せています。
お互いの第一印象

吉田琉雲
吉田:第一印象は……、変わらないです。ちょっと怖そうなイメージ、ですね(笑)。
小島:色々厳しく口酸っぱく言ってるからね。自分の思いや理想を100言ってしまうと誰も着いて来れなくなりそうなので、これでも言いたいことは10分の1に抑えてるんだけどね(笑)。
琉雲の第一印象は、最初ってやっぱお父さん主導なので、お父さんに連れられてきていて、何も言わず黙っている静かな子という印象でした。あれからプロになって、成長はしているけど、まだまだ成長スピードを上げられると思っています。俺からしたらプロ意識が全然足りていないのだけど……。

小島庸平
吉田:最近はちょっとずつ意識し始めています。
小島:色々言っていますが、17歳で初優勝という結果をちゃんと残しているのはすごいことです。
吉田:本当はIA2クラス1年目で優勝したかったんですけどね。2年目に地元大会で優勝できたので、良かったかなとは思ってます。思い通りにはいきませんでしたが、ジュニアからナショナルクラスでチャンピオン獲ってIAに上がって、思ってたよりもスムーズに進んでいるのかなと思います。
小島:僕は琉雲が1年目で表彰台に登れたらなとは思ってました。ただ、IA2クラスにはトップライダーも多くいるので、正直2年目も優勝は厳しいんじゃないかと思ってて。地元の名阪スポーツランドでなら、もしかしたら1%の可能性があるかなという気持ちでした。実力の有無じゃなくて、やっぱりIA2クラスのトップライダーと比べると、体制やバイク、経験含めてどう考えても向こうに分があるので、その中で1%をものにしたっていうのは大きいです。僕自身は19歳で初めて優勝したので、それに比べたら2年早い。今の全日本において見ると順調かもしれません。ただ、もっともっと早くに結果を残せたライダーだとも思っています。
ライディングスタイルの違う2人、お互いの走りを見て

第5戦参戦時 #14吉田琉雲
小島:センスがある。バイクに乗るのが上手いなと思います。同年代の中ではずば抜けているんじゃないかな。モトクロスを何十年も経験している自分としては、やっぱりライン取りやアクセルの開け方など細かいところはまだまだ伸ばせると思いますけど、それこそこの前の名阪(D.I.D全日本モトクロス選手権シリーズ2025第5戦)では、荒れたコンディションでテクニックもスピードも必要な中、勝てたというのは成長を感じました。僕が今250ccマシンに乗って勝てるかというと多分勝てないと思う。

第5戦スポット参戦時 #27小島庸平
吉田:僕から見た小島監督の走りは、1周目からずっと攻め続けているという印象です。自分は1〜2周目で攻めきれなくて、そこの攻略が苦手なんです。450ccマシンのパワーで、あれだけアクセルを開けて攻め続けていく姿は、僕にはできない走り方ですし、自分に無いスタイルなので学びになります。
小島:僕は小さい頃からスタートが得意だったんです。瞬発的な反応とかが多分得意。だから、1〜2周目にトップとか上位にいるのが自分にとっては普通の感覚でした。逆に言うと、このスタイル以外の走り方ができない。人それぞれ長所短所はあると思うので、自分の短所をどう克服していくかです。ただ、自分でも40歳になってまであの走り方で前にいけるとは思ってなかった(笑)。
琉雲はまだ身体ができあがっていないけど、バイクに乗ってもあんまりタレないんだよね。そこが長所だし、序盤の数周を攻略できたら無敵に近づきますよね。逆に僕はトレーニングして体力さえつければ、序盤からそのまま逃げ切ることができて無敵に近づく。つまりはどこをどう補うかっていうところですよね。みんなそれぞれ欠落してるところがあるから、僕はチーム監督として指摘するという役目に徹しています。
吉田が持つ圧倒的な”センス”

小島:先ほども少し話しましたが、琉雲の走りを見ているとやっぱりセンスがあるなと感じます。センスが何かというのは感覚的な話なので難しいのですが……、”潜在的に持っている能力の高さ”だと思います。
野球でも何でもそうですけど、教えたことを上手くこなせるとか、教えてなくてもできちゃうという感覚。サッカーで言うと、ボールを蹴ることを教えてそのままいきなりゴールを決められちゃう人とできない人がいると思います。その差と言いますか。琉雲の場合はバイクに乗る元々の能力が高いと感じます。これはジュニアの時から感じていました。
吉田:自分としてはそこまで感じたことは無いですね。ジュニアとナショナルでチャンピオンを獲ってきましたが、実感といわれると全然ないです。 お父さんが厳しくて、レースで勝っても怒られることがあったので、その影響もあって自分をすごいと思うことはないのかもしれません。
小島:まあすごいかすごくないか、というのはやっぱり周りが判断することだと思う。自分がすごいと思った時点で成長はしないと思うし。ただ、現状、全日本の舞台で17歳で優勝できたっていうのは飛び抜けてるよね。日本だけでなく海外に視野を広げると、もっとすごいやつもいますけどね。
吉田:そうですね。IA2クラスのトップも速いので、常に前にいる中島選手や田中選手たちは意識して見ています。
小島:僕の話になりますが、チームを作った理由として、日本のモトクロスのレベルを上げたいっていう想いがあります。それで言うと、琉雲が今回中島選手たちを抑えて優勝したことはすごくレベルアップにつながると思っています。ライバル、というより、切磋琢磨して一緒にレベルを上げたいし、日本のレベルをもっと上げて、世界に行けるようなものにしていかないと駄目だよなと思っています。とはいえ勝負の世界なので、IA2のトップライダーが若手の琉雲に負けるわけにはいかないでしょう。それを僕もわかっているから勝たせたいんです。
今後の目標
吉田:今シーズンは残り2戦で、第6戦は表彰台を目指しています。最終戦は得意なコースなので、両ヒート1位を獲りたいと思います。
小島:第6戦以降は、毎ヒート表彰台に登ってほしいですね。ただ、勝つことはそんな簡単じゃないし、勝てるチャンスが見えた時にしっかり勝つというライダーが強いと思っています。いかに勝てるチャンスを自分で作れるかっていうところになってきますが、琉雲の実力的に、どんな状況でも表彰台に登れるくらいになってほしいですね。
吉田:将来については、海外に通用できるライダーになれたらなと思ってます。観戦を含めて3回ヨーロッパなど海外に行ったことがあり、現地のライダーの走りを見てその差を実感しましたが、それが刺激にもなっています。
小島:17歳で若いとはいえ、海外から声がかかるぐらいの速さを持たないとなかなか難しい現実もあります。彼の実力を披露する場をどう作るかという課題もあり、その辺はいろいろ考えていかなきゃいけないですね。僕としては、日本のレベルを上げて、日本から海外につながる道を作りたいです。
Bells Racingの小島庸平監督と吉田琉雲が語った出会いから今まで、そしてこれから。17歳で全日本初優勝を飾った吉田選手の成長に小島監督の熱い想いも重なり、今後の活躍も目が離せません。