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「上手く乗れなかった」の正体。大塚豪太が壊した、ライダーがやりがちな5つの精神的誤解

レース取材でライダーに話を聞くと、「上手く乗れなかった」「調子が上がらなかった」という振り返りをよく耳にします。では、その"上手く乗れない"の内側では、実際に何が起きているのでしょうか。

スポーツにおける「メンタルコントロール」という言葉は耳慣れていても、それが現場でどう実践されているかは、なかなか見えてきません。特にモトクロスは個人競技。レース中はライダー自身の技量とメンタルが、そのまま結果につながります。

T.E.SPORTからホンダ CRF450Rで全日本モトクロス選手権IA1クラスに参戦する大塚豪太選手は、IAクラス12年目の2026年(6月30日時点)、第4戦SUGO大会で初の総合優勝を獲得しました。新たにコーチング体制を取り入れ、実力をさらに伸ばし続けている一人です。

その大塚選手に話を聞くと、見えてきたのは特別なメンタルテクニックではなく、多くのライダーが無意識に抱えがちな"思い込み"を、一つずつ解決してきた過程でした。

誤解① 速くなれば結果はついてくる…わけではなかった

大塚選手は2025年シーズンを終えたオフシーズンから、元全日本モトクロスIAチャンピオン・山本鯨氏にコーチについてもらうようになりました。2025年12月頃に始まったこの体制は、長く自己流でやってきた大塚選手にとって初めての取り組みです。

「僕は今年でIAクラス12年目なんです。親がライダーだったわけではないので、これまでは自己流でやってきました。決して手を抜いてきたわけではなく、自分なりにやれることを100%注いできたのですが、自己流の限界をちょっと感じていて。そこで鯨くんに相談したら、コーチとして見てもらえることになりました」(大塚選手)

トレーニングを変える、練習方法を変える、ヨーロッパに渡る……。速くなるために、語り尽くせないほどの手を試してきたという大塚選手。その過程で行き当たったのが、最初の誤解を壊す気づきでした。

「気づいたのは、『速くなること』と『レースで結果を出すこと』って、一緒ではあるけど別だということ。速くなっただけではリザルトを残せない部分もあるんです。これまでの経験は自分のスキルや引き出しになっているのに、それをレースで上手いこと生かせなかったりしていました」(大塚選手)

速さや経験は自身の引き出しを増やしてくれる。けれど、引き出しが増えることと、それをレース本番で開けることができるかは別の話だった、ということです。

誤解② メンタルは鍛えれば強くなる…わけではなかった

コーチを迎えてから見えてきたのは、「走り」と「メンタル」を切り離して考えていた、かつての自分自身でした。

「以前は、メンタル面にだけ集中して鍛えよう、強くなろう、としていた時期がありました。でも最近は、結局ぜんぶ繋がってるなと思います。メンタルの安定のベースにあるのは普段の取り組みで、それがけっこう大きい。僕の場合は私生活、練習、トレーニング……、全部の行動が繋がって、自信やメンタルの強さになっています」(大塚選手)

メンタルは、単独で鍛えられる一つの筋肉ではない。日々の取り組みの総和として、後から立ち上がってくるものであり、それが自己流からコーチング体制へと移って手に入れた視点だったと言います。

誤解③ 苦手は気合いで乗り越えられる…わけではなかった

2026シーズンはマディコンディションが続いています。天候によって心理が揺らいでもおかしくないところですが、大塚選手は「揺らぎは全くないです。どんなコンディションでも、そこそこ自信を持っています」と言い切ります。

ただし、その自信の出どころは気合いではありません。

「たとえば雨にすごく苦手意識がある場合、『俺はいける』っていう気合いだけだと、根拠が見えないじゃないですか。マディを乗る技術がないのに、気持ちだけでどうにかするのは無理がある。だから、その根拠を裏付ける準備をしています」(大塚選手)

自信とは、気分ではなく、積み上げた準備がつくる"根拠"だということ。そしてその準備には、レース当日のルーティンも含まれます。

「ルーティーンみたいなものもありますよね。レース前に何を食べるとか。実際にいいのか悪いのかわからなくても、それをやったことで精神が安定したりする。僕の場合、レース前は絶対に生ものを食べない、とか。だから北海道で大会がある時は、お寿司を食べたいけど我慢しています(笑)」(大塚選手)

効くかどうかが科学的に証明できなくても、決めごとを守ること自体が心を整える。準備とは、技術の裏付けであると同時に、自分を平常心に置くための儀式でもあるわけです。

誤解④ 落ち込む=引きずる…わけではなかった

モトクロスのために生きている、と言い切る大塚選手。結果を残すことができなければ、当然落ち込みます。また、自身の性格について聞くと、「何でも真面目に考え込んでしまうタイプ」と分析します。落ち込んで考え込むと、ネガティブな方向に思考がいってしまいそうですが、大塚選手はそこの切り替えが得意だそう。

「落ち込んだとしても、それをネガティブな方向に引きずるわけではなく、『じゃあどうしよう』とエネルギーにしてきました。切り替えは得意な方だと思います。考え込むといっても、レースの時まで考え込んでいるわけではなくて。バイクに乗っていない時は、勝つために・速くなるためにどうするかを考え込みますが、レースの時は、良いパフォーマンスができるように考え込んでいる、という感じです」(大塚選手)

「落ち込む」と「引きずる」を同じものだと思っていると、一度の失敗が次へ波及していきます。大塚選手は、この2つをはっきり別の動作として切り分けています。それはヒート間でも変わりません。

「ヒート1で上手く乗れなくても、次のレースまで引きずることはないですね。前のヒートの振り返りと反省点だけ考えます。よかったところは生かすし、修正点も考えますが、そこでネガティブになることはないです」(大塚選手)

その切り分けを支えているのが、経験から見えてきた自分なりの「調子が崩れるパターン」です。

「こういう時は調子が崩れる、というパターンがわかってきました。なので、そのパターンが来た時は、自分の中の引き出しから対処法を見つけて当てはめます。どこでリズムが崩れているか、なんで乗れていないかは大体わかるので、ヒート中に修正できずに終わっても、2ヒート目に行く前に自分の中で整理し直していきます」(大塚選手)

整理の手段は、動画の見返しやコース確認だと言います。「考え込むタイプ」と自称しながら、悩みっぱなしにならないのは、漠然とした感情を、原因を整理し、具体的な行動へ落とし込んでいるからでしょう。

誤解⑤ メンタルの強さは生まれ持った才能…ではなかった

では、大塚選手のメンタルは才能なのか。本人は、生来の性質と、自ら学んできたものの両方だと言います。

「精神面はこれまでにいろいろ勉強もしました。メンタルの強さについては、元々備わっているものもあると思いますが、自分の性格的な部分も大いに影響していると思います。僕は諦めがすごく悪いんですよ。だから勝てなくても12年やってきた。この忍耐力は強みだと思いますし、考え込むという性格もそうだと思います。今年は鯨くんから客観的な意見をもらうことが多くて、自分はこう思っていたけど客観的に見たら違う、ということがたくさんあります」(大塚選手)

しかし、大塚選手はそれを「才能」の一言では片づけません。最後に大塚選手が挙げたのは、ここまでの5つすべての土台になる結論でした。

「メンタルの強さや自信を身につけるには、結局、自分を知っていくことが大事だと思います。『自分はこういう時にこうなるんだな』と。精神論の教科書があったとしても、自分に全部当てはまるわけじゃない。だから合うもの・合わないものをチョイスして、自分なりにいろいろ編み出してきました。12年、だいぶ時間はかかっていますが、着実に成長していると思います」(大塚選手)

自己理解と準備が噛み合った、第4戦での初優勝

その自己理解と準備がきれいに噛み合った瞬間が、第4戦SUGO大会でした。12年目で初めて総合優勝にたどり着いたこのレースで、大塚選手は何を考えていたのでしょうか。

「これまでやってきたことを発揮するのみ、ということです。もちろん、総合優勝がかかっているなど、結果が頭を全くよぎらないと言えば嘘になりますけど、次に来るコーナーのことに集中するようにしていました」(大塚選手)

追い上げの展開もありましたが、終始"乗れている"という手応えがあったと言います。

「乗れているなという感覚はありました。僕は荒れたコースが好きなので、得意なコンディションでしたし、"楽しく走れた"という感覚が大きかったです」(大塚選手)

「乗れている」と「楽しい」が繋がるのは、偶然ではありません。

「ホームコースの八方スポーツランド(栃木県)はすごく荒れていて、結構難しいんですよ。子供の頃から、そこしか乗ったことがないと言っても過言じゃないくらい乗り込んでいました。路面はすごく滑るし荒れているけど、そのおかげでスキルが自然と身についたと思います」(大塚選手)

荒れた路面で育った事実が、「得意」という根拠になり、当日の自信を支えていた。誤解③で見た"準備"は、レース前の数週間だけのものではなく、子供の頃から始まっていたわけです。

大塚選手の言葉から見えてきたのは、特別なメンタルテクニックではなく、ライダーが無意識に抱える思い込みを一つずつ壊し、その下から「自己理解」を掘り起こしていく作業でした。「上手く乗れない」と感じるとき、そこには必ず原因がある。その原因を自分で掴めるかどうかが、ライダーとしての成熟に直結しているのかもしれません。

最後に、シーズン後半に向けた目標を聞きました。

「変わらず、今ある課題をひたすら潰して、今年中に1勝はしたいです。今シーズンは成果が出ていると実感していますし、それに対して自信を持てています。このまま継続していきます」(大塚選手)

シーズン後半戦、その積み重ねの先に待つ次の1勝に、注目したいと思います。

  • この記事を書いた人

アニマルハウス

世界でも稀な「オフロードバイクで生きていく」会社アニマルハウス。林道ツーリング、モトクロス、エンデューロ、ラリー、みんな大好物です。

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