世界的にも最先端のモトクロス大国アメリカでは、プロのみならずアマチュアレベルでもスタートを最重要視しています。この10年ほど、もはやトレンドとは言えないほどに、とにかくスタート偏重が続いており、コーナリングでのグリップを捨ててでもスクープタイヤ(ダンロップMX14などのパドル型タイヤ。本来サンド、マディ用としてラインナップされており、直線でのグリップはバツグン)を選ぶライダーが多いほどなのです。
スタートを重視する現代モトクロスにおいて、ホールショットデバイスは定番装備。日本でも、選手権レースともなるとほぼ全車に付いています。では、デバイスはなぜそこまで効くのか。そして、かける深さはどう決めればいいのか。全日本モトクロスでは、オフロードヴィレッジとHSR九州がメッシュのスタート、そのほかの会場は土のスタートです。路面が変わるなら深さも変えるべきなのか。第7戦近畿大会のパドックで、ファクトリーのメカニックとトップライダーに聞いてみると、答えはきれいに分かれました。
ホールショットデバイスは、フォークが伸びるのを止めている
スタートでスロットルを開けきれない理由は、リアタイヤが空転するか、フロントが浮くかの2つです。どちらが先に来るかは路面のグリップで決まり、よく食う路面ほどフロントが浮きやすくなります。ホールショットデバイスが受け持つのは、この浮く側です。

フォークを縮めてロックすると、まず車体が前傾して、重心が前へ、下へ移ります。加速するとライダーと車体には後ろ向きの力がかかり、それがフロントを持ち上げようとします。重心が前に出れば、フロントを押さえる側のてこが長くなるので、同じ加速でもフロントは浮きにくくなります。
さらにもうひとつ効果があります。デバイスなしでクラッチをつなぐと、荷重がリアに移り、フロントフォークが伸びます。フロントが上がれば重心は後ろへ、上へ動き、浮く限界そのものが下がっていきます。しかもフォークが伸びるまでには一瞬の遅れがあり、ライダーはその遅れて上がってくるフロントを、さらに遅れて感じ取って修正することになります。動くフロントを後追いしている状態なので、クラッチは安全に緩くつなぐしかありません。

ロックしてしまえば、フロントは限界を超えるまで動きません。浮くか浮かないかの境目がはっきりするので、その手前ぎりぎりまでスロットルを開けられます。
メッシュは深め、土は浅め。ジェイ・ウィルソン選手は2本持っている
さて、実情はどうなのでしょうか。全日本モトクロスで聞き込みをしてみました。
「いろいろ深さを試して、基本は2種類です。日本だとまだスタートがメッシュとダートに分かれているので、ダートのほうは浅め、メッシュのほうは深めにしています。メッシュのほうが食いつきがいいので」(ジェイ・ウィルソン選手のメカニック内山さん)


メッシュはリアタイヤがしっかり食いつくので、空転する側の限界がなかなか来ません。そのぶんフロントが浮く側が先に、しかも強く来ます。だからフォークを深く沈めて、手前で押さえておく。土はある程度リアが空転して力が逃げるので、メッシュほど沈める必要がありません。「食いつきがいいから深め」というメカニックの説明は、前の章の理屈とそのままつながります。
深さを決めるときに何を優先しているのかも聞きました。
「スタートのポジションでウィリーしにくいように、というのがいちばんです。1コーナーでブレーキをかけたときに確実に外れる、ということよりも重要ですね」(ジェイ・ウィルソン選手のメカニック)
具体的に何mm沈めているのかは、チームの秘密ということで教えてもらえませんでした。テストで何通りも試して決めた数字なので、当然といえば当然ですね。
大倉由揮選手は、全会場を同じ深さで走る
一方、大倉由揮選手の答えはシンプルでした。見た目にも深めのセットで、本人も「深めだと思います」とのこと。
「僕は何も変えてないです。深さもずっと統一です。一番最初にテストして調子がよかったので、そのまんまずっとって感じですね。メッシュとか土質とかも、とくに気にしていないです」(大倉由揮選手)
モトクロス・オブ・ネイションズにも、このセットのまま臨むそうです。ほかのライダーの深さを参考にすることもあまりないといいます。では、何を手がかりに良し悪しを判断しているのか。

「前が上がりすぎるとか、低すぎるとか、それぐらいの簡単な感覚です。それがちょうど合ったのがいまの深さですね」(大倉由揮選手)
路面ごとに2本を使い分けるチームと、1本で通すライダー。やり方は正反対ですが、物差しはどちらもフロントの上がり方です。メカニックは「ウィリーしにくいように」、大倉選手は「前が上がりすぎるか低すぎるか」。外れるタイミングや数字より先に、ゲートを出た瞬間のフロントの姿勢で深さを決めています。
普段は土のコースで練習していて、メッシュのレースに出る予定がないなら、大倉選手のように1本決めて通すのが近道です。メッシュのスタートなら、そこから深い位置でもう1本試しておく。どちらにしても、判断の基準はフロントの上がり方です。
深くかけるほど、かける作業がシビアになる
深い位置でかけるほど、フォークを沈めるのに力が要り、ボタンを押すにもタイミングが難しくなります。スタート前にメカニックが二人がかりでフォークを押し込む光景はおなじみですが、ここでつまずく人も多いそうです。
「なかなかデバイスをかけられない人って、サスペンションを押した瞬間にボタンを押しちゃってるからかからないんですよ。僕らは慣れてくると、グッと押し込んでからボタンを押します。前は裏に丸いボタンがヒョッと出ていたんですけど、いまのは鍵状のものが出るので、ガチャッと掛かった感覚がしっかりあるんです。メカニック的にはかけやすくなっていますね」(ジェイ・ウィルソン選手のメカニック)

スーパーモタードでも、プロラウンチコントロールが大活躍
昨今ではZETA RACINGのプロラウンチコントロールがかけやすいということで、全日本モトクロス選手権でも多く見かけるようになってきました。

ZETA RACING
プロ ラウンチコントロール
KAYABA/WP用(クランプ部外径Φ54mm)
SHOWA用(クランプ部外径Φ55mm)
¥12,980(税込)
深さの正解はチームごと、ライダーごとに違いますし、数字も表には出てきません。それでも、トップライダーの物差しがフロントの上がり方ひとつだとわかれば、自分のセットを詰める手順は見えてきますよね。サンデーレースでホールショットデバイスを使うライダーはあまり多くありませんが、実はクラッチを離した瞬間にわかるほどフロントがあがりづらく、あなたのスタートのレベルを1つも2つも上げてくれる魔法のパーツ。一度ぜひインストールしてみてください。