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プロに頼らない、DIY精神で挑むセロー250のフロントフォークオーバーホール

今回は少し難しめのフロントサスペンションオーバーホールに挑戦してみましょう!

ある日、ブレーキが効かなかった…

ライドハック編集部が所有するヤマハセロー250は、常に屋内保管しているし、デモバイクとして撮影することも多くメンテ状態はすこぶるいいはず……そんな風に思っていました。ところが、ある日乗ってみるとやけにブレーキの効きが良くない。エアでも噛んだかな、と点検してみると、なんとサスペンションが原因でした! サスペンションのオイルシールからオイルが漏れ出していて、ブレーキローターに付着してしまっていたのです。こうなると、ブレーキパッドがオイルを吸ってしまって効きが悪くなります。嗚呼、サスペンションのオーバーホールだけでなく、ブレーキパッドの交換が必要になってしまいました(泣)。こんなことなら早めにサスペンションをメンテしておけばよかったですね。

サスペンションのメンテナンスは、あまり乗っていなかったとしても、ある程度の時期を経たらやっておきたいものです。オイル交換をサボってもなかなかエンジンは壊れませんが、サスペンションのオイルシールは確実に劣化してオイルが漏れてきます。オイルの劣化や内部パーツの摩耗も進むので、これらを交換することで減衰力が復活します。どちらにせよ、気持ちいいオフロードライディングには、サスペンションの定期的なメンテナンスは欠かせません!

サスペンションは比較的難しいメンテナンス分野ですが、構造が簡単なセロー250であればDIYでオーバーホールすることができます。今回は、メンテナンス自称中級者のライドハック編集部員がチャレンジしてみることにしました。昔はエアで動くインパクトレンチが必要だったため、大きいエアコンプレッサーを持つバイクショップでないとなかなか手が出せない分野でしたが、最近は電動工具の普及で一般ユーザーでもやりやすくなりましたね! ただ、リアサスペンションは相変わらず難しいので、専門店へ依頼するのが吉ですよ。なお、今回はフリーランスのメカニックとして活動しているモータークリニックストラーダの渡辺さんに監修いただいています。

 

作業開始前の準備

メンテナンススタンドに乗せる前のバイクが安定している状態で、固いボルト類を先に緩めておきます。フロントアクスルシャフトのナット、フロントブレーキキャリパーの締結ボルト、フロントフォークの締結ボルト4本のうち3本を緩めておきます。1本は仮止めとして残しておくことで、サスペンションが不意に落下するのを防ぎます。ジータレーシングのアドベンチャーウインドシールドが装着されている場合は、フロントサスペンション周りの作業が難しくなるため、ハンドルと一緒に外しておくと良いでしょう。フロントフォークのトップキャップも緩めておきましょう。純正は19mmのレンチ、ZETA RACINGのフロントフォークトップキャップイニシャルアジャスターが装着されている場合は27mmレンチで緩めることができます。

フロントサスペンションをオーバーホールするには、フロントサスペンションを車体から取り外す必要があります。メンテナンススタンドやレーシングスタンドなどで車体を浮かせて準備をしましょう。フロントを浮かせたいためリアに多めに荷重がかかるバランスで、できるだけ平坦な場所にジャッキアップします。この時点ではバイクが多少不安定になるため、十分注意しましょう。フロントタイヤを外し、フロントブレーキ関連部品も取り外します。

残しておいた1本のボルトを緩め、フロントフォークを手で引き抜きます。インナーチューブに汚れや固着物がある場合は、事前に清掃しておくとスムーズに作業が進みますよ。

フロントサスペンションの分解

フロントサスペンションを取り外したら、先ほど緩めておいたトップキャップを完全に外します

その下にあるカラーとスペーサーを取り出します。スプリングとワッシャーも取り出しちゃいましょう。

次にオイルを抜き取ります。オイルは内部構造に絡んでいるため完全に抜ききるのは難しいのですが、逆さまにして放置するか、床にオイルを漏らさないよう注意できるなら、そのまま作業を進めてしまっても構いません。

オイル交換だけを目的とする場合は、この時点で新しいオイルを規定量入れて油面を計り、トップキャップを閉めれば完了です。オーバーホールを行う場合は、次の工程に進みます。

インナーチューブの取り外し

フロントフォークの底部にあるボルトを外します。このボルトはシリンダーコンプリートと呼ばれる部品を締結しており、中で共回りしやすいためインパクトレンチを使って外しましょう。前述した通り、かつてはエアインパクトレンチがないと作業困難でしたが、現在では電動ツールでも楽々外せます。

ボルトを外すと、漏れ防止用の銅ワッシャーがボルトについています。アウターチューブの底に残ることもあるので忘れずに取り出してください。この部品はオイル漏れに繋がるので必ず交換しましょう。

UNITのダストシールリムーバーを使うとインナーチューブに傷を付けずにダストシールを取り外しやすいですよ。

 

オイルシールのストッパーになっている、スプリングを外します。インナーチューブを傷つけないよう注意してください。

この段階でインナーチューブをアウターチューブに止めているのはオイルシールだけです。スライドハンマーの要領で、インナーチューブをアウターチューブから引き抜きます。何度かインナーチューブを上下に動かして力技で外します。

インナーチューブには多くの細かいパーツが付いています。これらの部品は順番通りに装着しないとサスペンションの機能を果たさないため、スマホで写真を撮るなどして記録しておくことをお勧めします。

部品の確認、洗浄、交換

インナーチューブを外したら、シリンダーコンプリートも上側から抜き取ります。スプリングとプラスチックのカラーが付いているので、これらも損傷がないか確認してください。このバネはサスペンションの伸びきり時のショックを吸収します。

すべての細かい部品をパーツクリーナーで洗浄します。アウターチューブの底部には鉄粉が溜まりやすいので、念入りに洗浄しましょう。減衰力の要となるシリンダーコンプリートも丁寧に洗浄すると動きが改善されます。

フロントフォークのオイルは通常そこまで汚れず、赤い色をしていることが多いです。真っ黒になっている場合はだいぶサスペンションを稼動させている証拠ですね。

右がDRC製ハードスプリング

セロー250用にDRCからハードスプリングが販売されています。約20%ハードなスプリングで、価格は8,800円です。より硬めのサスペンションを求める場合は、スプリング交換も検討してみましょう。スプリングの交換は、サスを車体につけたままトップキャップを外すだけでも可能ですよ。

フロントサスペンションオーバーホールの要となるのがオイルシールです。このゴム部品が劣化してシールのリップ部分が硬化することでオイルが漏れ出してしまいます。また、泥などが入り込んでリップが傷つくこともあります。

インナーチューブの摺動部には「メタル」と呼ばれる部品が使われています。パーツリストではピストンやメタルスライドなどと記載されているもので、摺動性を高めるためにコーティングされています。サスペンションの上下運動でこのコーティングが徐々に剥がれ、動きが悪くなっていきます。これらの部品はせっかくオーバーホールするなら、交換しておきたいところです。

ピストンは、嵌合部分を広げることで取り外し・装着します。

インナーチューブは細かく点検し、線傷や錆がないか確認してください。オイルシールに当たる部分に傷があると、シールのリップを傷めてオイル漏れの原因になります。細かな傷は細目の耐水ペーパーで磨くか、再メッキが必要な場合もあります。

先ほど写真でメモした順番に従って、オイルシール、ピストン、メタルスライドを組み立てていきます。オイルシールをインナーチューブに通す際は、リップを傷めないように食品用のラップをインナーチューブにかぶせてから慎重に装着します。

シリンダーコンプリートをインナーチューブに入れ、カラーなどを組み込み、インナーチューブをアウターチューブに戻します。

底部ボルトの銅ワッシャーは新品に交換し、インパクトレンチで締め付けます。本来的には共回りしないよう処置した上でトルク管理するべきですが、振動の多い場所ではないので自己判断で締め付けましょう。

オイルシールはアウターチューブに打ち込む必要があります。DRCのフォークシールドライバーを使用すると作業がスムーズです。

オイルシールが底部に装着されたら、クリップスプリングを溝に差し込みます。

最後にダストシールを手で押し込めば完了です。

オイルの注入と油面調整

次にオイルを注入します。規定量を入れた後、油面を調整します。メスシリンダーで規定量の385mlを計る人もいますが、のちほど油面を計るので正確でなくてもOK。

インナーチューブとアウターチューブを上下に動かし、内部のエアを抜いて油面を安定させます。激しく動かすとオイルが泡立つので、ゆっくり動かしてください。

インナーチューブは底付きさせた状態にして、DRCのフロントフォークオイルレベルゲージで油面を測定します。セロー250の標準油面は125mmです。オイルより上の空気部分は、サスペンションが動き出す初期の柔らかい部分を担当しています。つまり、このオイルの量によってサスペンションの初期の硬さを調整できるのです。オイルを少なくすると初期の柔らかさが増し、多くすると柔らかい部分が減少します。好みに応じて5mmくらいの単位で調整してもいいですね。多すぎると底付きした時にオイルの逃げ場がなくなって、オイルシールにダメージを与えてしまうので注意です。

最終組み立て

ワッシャー、スプリング、ワッシャー、カラー、ワッシャーの順に入れ、トップキャップを仮締めします。これでサスペンション自体は完成です。

サスペンションを車体に組み付ける際、セローのような正立フォークはトルク管理の重要性は低いですが、ねじれ剛性を正確にするためトルクレンチの使用をお勧めします。倒立フォークの場合はトルクレンチが必須です。

サスペンションを取り付けて仮締めしていたトップキャップを本締めし、タイヤを装着すれば、オーバーホールは完了です。

長期間放置されたセロー250のサスペンションも、オーバーホールによって減衰力が明らかに改善されます。特に戻りの減衰力が向上し、サスペンションの性能がしっかり発揮されるようになります。理想的にはリアサスペンションも同時にオーバーホールし、前後バランスを整えるとさらに良いですね! 早速、道路を走ってみましたが、ハードスプリングでしっかりしたこともあって、見違えるようなサスペンションに仕上がりました。もちろん、ブレーキの効きもバッチリです!!

 

  • この記事を書いた人

アニマルハウス

世界でも稀な「オフロードバイクで生きていく」会社アニマルハウス。林道ツーリング、モトクロス、エンデューロ、ラリー、みんな大好物です。

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