5秒速くなれる!?「メカチク」がWEBで復刻!
本記事の内容は、「ダートクール2003 No.5」掲載の「読むだけで5秒速くなれる メカのウンチク話」を、2025年現在の情報に合わせて一部注釈や文章、図の修正を行い掲載しています。
■2003年#05より
速く、そして楽しく走るために欠かせないメカ知識とモトクロッサーの正しい整備方法を紹介するメカのウンチク話。レジェンドメカ小菅登氏の、タメになるウンチク話をたっぷり紹介いたします。
速く安全に気持ち良く走るためのセッティング - キャブセッティング・基礎編
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● キャブセッティングの参考例●
もしも同じコースでしか走らないのであれば、1度セッティングを出したら、あとは季節や天候に合わせてアジャストするだけでいい。
しかし選手権を転戦するライダーは様々なコース、土質を走らなくてはいけない。
ラインの確認やサスセッティングなど練習走行でやるべきことが山ほどあるのに、キャブセッテイングを一から始めていたのではあっと言う間に終わってしまう。
できれば走りだす前に、ある程度はコースの状況に合わせたセッティングをしておきたい。
そこで毎年猛暑の中、岩手県の藤沢スポーツランドで行われる7月の全日本選手権東北大会を例に、キャブセッティングのシミュレーションをしてみよう。
まず比較するために例年通り30℃を超える暑さを記録していた2002年の藤沢を振り返ってみよう。
この時期はすでにほとんどの地域が梅雨明けしており、各ライダーとも地元のコースに比べて暑くてもその差は5度以内だと思う。
また決勝時は晴天だったが、早朝には雨が降ったせいで湿気あり。藤沢の標高は約300mである。
普段、埼玉県のオフロードヴィレッジで練習しているとすると、気温は大差なし、湿気と標高だけ考えればメインジェットを1~2段絞ってもいいぐらいだろう。
ピットでエンジンをかければ良いフィーリングで吹き上がったはず。
しかしオフロードヴィレッジは、ほとんどアップダウンがなく硬質路面のショートコース。
対して藤沢はアップダウンの激しいサンドのロングコースなので、まったく逆だ。
とすれば普段よりもメインジェットを4~5段も濃くしないとガソリン供給量が追いつかない。
特に勝負所となるドラゴンストマック(谷間にあるヘアピンコーナー)からの登りでは、トルク不足を感じるはずだ。
したがって気候とコース状況両方を計算して、予測されるメインジェットは「3段前後濃く」ということになる。
実際小菅メカが元木龍幸や増田一将と全日本を転戦していた時も、地元の関東のコースより2段濃くして、ベストセッティングが出ていたそうだ。
2003年は梅雨明けが遅れ、例年になく涼しかった。
また全日本開催前に貯土地に蓄えられた山砂もコースに戻しており、しかも時折雨も降りコースはややマディ。水分を含んだ路面はかなり柔らかい状況だった。
日曜の決勝時の気温が20~23℃。湿気も多かった。
標高は変わらないが、湿気を含んだ土質は昨年よりもかなり重かったはずだ。
とすれば「オフロードヴィレッジに比べて5段、去年の藤沢に比べても2~3ほど濃い目」のメインジェットが必要であったはず。
朝の練習走行をこのセッティングで走れば、あとは微調整するだけで済んだはず。
その分、サスセッティングやライン取りに集中できる。
ついでに言えば土曜の午前中は気温が約15℃だったので、さらに濃いめにする必要がある、
もしも例年のデータのまま走り出していたら、3~4段分薄かったことになる。
実際、2003年の藤沢では焼き付けを起こす車両が多く見受けられた。
硬い路面のコースしか走ったことがないライダーは、サンドのエンジン負荷がここまで大きいとは予想できなかったのかもしれない。
逆に自分のホームコースがサンドならば、硬い路面で走っているバイクに比べ普段から2~3段濃い目のジェットを使っているはずだから、それほど大きくセッティングが外れることはなかったはず。
自分が普段どんなコースをセッティングし、今度走るコースはどう違って、どんなセッティングやアジャストが必要なのか把握することが大事だ。
藤沢スポーツランドは全日本選手権が行われていたコースの中でも随一のサンドコース。
オフロードヴィレッジとの比較は極端な例だと思うが、このようにキャブセッティングには気温や湿度以外にも、コースに合わせたアジャストが必要だということを知ってほしい。
ここでは架空のライダーA君のキャブセッテイングを想定してみた。
中央が普段は知っているオフロードヴィレッジで左右が去年と今年の藤沢でのアジャストの様子。
あくまでシミュレーションだが、このようにコース状況や天候、気温によってキャブセッティングは大きく変わるということを知ってほしい。
【トルク不足】
250㏄に比べてセッティングがシビアな125㏄クラスでは4サイクル車が活躍しているのは、
ルーズなセッティングでもそこそこ走ってくれて、しかもトルクがあるということが
影響していると思われる。
2スト勢はセッティングをばっちり決めないと勝負が難しくなる。
(注)上記は2003年時点のコメントで、2025年現在、全日本モトクロスのレースでは、フルサイズマシンはほぼ4ストローク車のみとなりました。
[#06へ続く]
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【クレジット】
Text: Dirt Cool
Illustration: Takuma Kitajima
Special Thanks: Noboru Kosuge
※転載不可