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メカのウンチク話 速く安全に気持ちよく走るためのセッティング 〇キャブセッティング・基礎編#4

5秒速くなれる!?「メカチク」がWEBで復刻!

本記事の内容は、「ダートクール2003 No.5」掲載の「読むだけで5秒速くなれる メカのウンチク話」を、2025年現在の情報に合わせて一部注釈や文章、図の修正を行い掲載しています。

■2003年#05より

速く、そして楽しく走るために欠かせないメカ知識とモトクロッサーの正しい整備方法を紹介するメカのウンチク話。レジェンドメカ小菅登氏の、タメになるウンチク話をたっぷり紹介いたします。

速く安全に気持ち良く走るためのセッティング - キャブセッティング・基礎編

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● ジェットの変更や調整の基本的な考え方●

このセッティング連載の初回でも説明した通り、市販モトクロッサーは万人向けに製作されている。
ストック状態のキャブセッティングも同様で、日本のあらゆるコースや気候でも簡単には壊れないようにできている。
たまたまセッティングが合うこともあるかもしれないが多くの場合は性能を70%ほど発揮できるようなセッティング値である。
したがってまだ30%はセッティングの余地が残されているということ。

では、どんな時にキャブセッティングが必要になるのだろうか。

エンジンにとって理想的な燃焼状態をもたらす空気とガソリンの混合比は、決まっている。
ところがエンジン内に吸い込まれる空気は、気温や気圧(標高)などによって密度が常に変化する。
空気の密度は燃焼のエネルギーとなる酸素の量とも言い換えられる。

キャブセッテイングとはこの空気の密度変化に応じて適正なガソリンの量を混合できるように調整してやる作業である。
実際にはコースの長短や土質、高低差などによっても調整は必要だが、その前にまずキャブセッティングの基礎知識として、空気密度との関係から話を始めよう。

そう難しく構えなくてもいい。
空気は気圧が低いと密度が高まり。気圧が高いと密度が薄くなる。また気圧が高いと密度が高まり、気圧が低いと密度が薄くなる。
この公式を頭の中に入れておけばよいのだ。
これらは全ての物質に共通する性質だが、特に気体である空気はこの傾向が顕著である。

では空気密度とエンジンの関係だが、標高が高い所は気圧が低いので空気が薄い。
空気が薄くなると燃焼エネルギーの元である酸素が含まれる量も減る。

空気が薄いのにキャブセッティングをしないと、ガソリンの量だけは平地と同じままなので、いわゆるガソリンが「濃過ぎる」という状態になる。
そこでガソリンの量を減らし、薄い空気に合わせた理想的な混合比に近づけるのがキャブセッテイングである。

つまり夏や高地ではガソリンの量を減らすためにジェット類を絞る(サイズを下げる)、冬や平地ではガソリンの量を増やすためにジェット類を濃くする(サイズを上げる)。
単純に言うとキャブセッティングは空気に対してガソリンが「濃いか薄いか」なので、濃かったら薄く、薄かったら濃くして「ちょうど良い」燃焼状態にすればいい。

気温と気圧以外にも燃焼状態に影響を及ぼすのが湿気だ。空気の中の水分量が増えれば、その分だけ燃焼効率は落ちるので、雨天では基本的には絞る(ガソリンを減らす)方向だ。
しかし雨が降っている時は空気中の水分はまとまって雨滴になっており、エアクリーナーボックスに阻まれてエンジン内に侵入する空気にはそれほど水分が含まれていない。
一方、霧やムシムシする雨上がりなどは空気と一緒に湿度がエンジン内に侵入するので、思ったよりも濃い状態になることもある。

ここまでは気象や標高など、空気的な条件によるキャブセッテングなので、データをキチンと管理していれば走行前にピットで合わせることもできる。
心配ならエンジンを始動し吹け上がりを確認すれば、それほど悪い印象はないはずだ。

しかし実際に走行する際には、コース状況もキャブセッティングに大きな影響を与える。
それはひとことで言うと「エンジンに対する負荷の大きさ」だ。

エンジンは回転する際に抵抗が無ければ軽く一気に吹け上がる。その時に必要なガソリンは
比較的少量なのでキャブセッティングは薄めの方がフィーリングが良い。
しかし路面抵抗が大きくエンジンに負荷がかかるとガソリンをたくさん燃焼させないとパワーやトルクが足りなくなってしまう。

人間に例えると平地のアスファルトを走るときと、砂浜や登り坂を走るのでは必要な力は異なり、後者の方がエネルギーを余計に消費するのと同じ。

コースの路面抵抗(=エンジンへの負荷)がどの程度なのかは実際に走ってみないと分からないが、それではセッティングが進まない。
そこでコースの様子を観察し、適正なセッティング値を予想することが必要になる。(優秀なメカニックほどコース状況をこまめに観察している)。

コースでのエンジン負荷に関する要素の代表的なものは次の4つ。
まずは土質。アップダウン、コースの長さそして雨天ならマディの状況である。

それぞれ説明すると、カチカチの路面状態は抵抗が少なく、サンドやトラクションが良い路面はエンジン負荷が大きい。
コースが平地なら負荷は少なく、登り坂があるとそこで負荷は一気に増える。
また2~3速ギアしか使用しないコースなら負荷が少なく、ロングコースでは4~5速ギアで加速するのでエンジンへの負荷が大きい。
また雨が降っても土質によって路面抵抗は様々。
スタックするほどのマディが深ければ、エンジンへの負荷も大きいのでセッティングは濃いめ。
しかしスタックしないのであれば、むしろ湿度による影響を重視して薄めにセッティングする方がいい。

以上のような条件をもとに「濃い/薄い」の要素を足し算や引き算して、変更するジェットの段数などを決定する。
なお、様々な条件を分かりやすくまとめた表を下記に用意したので、それを参考にしてほしい。

またセッティングは経験を積めば積むほどレベルアップするが、その時に重要なのがデータの記録である。
天候やコースなどの条件と、何をどのように変更し、その評価を記録しておけば、それを参考に次回はより簡単にそして正確にセッティングできる。
キャブレターに限らず全てのセッティングは、データ記録が上達のカギである。

 

【理想的な燃焼状態】
空気とガソリンには理論空燃比と呼ばれる、理想的な燃焼状態を生み出す混合比率がある。
これには諸説があるが(どこまでモトクロッサーのエンジンに共通するものか不明だが)仮に15:1とすれば、キャブセッティングは単純に気候、標高で変わる空気密度に合わせてs15:1にすれば良い。しかしモトクロッサーが走るコースには様々な負荷の要素があり、しかも路面状態は毎回違うので走ってみないとその負荷は分からない。
負荷が変われば理想的な空燃比率も変わって来るはずなので、今の所、キャブセッティングとは「計測機械の数値に合わせて」というワケにはいかず、最も大事な決断要素は「走っているライダーのフィーリング」となる。
もちろんそれを積み重ねたデータも大切だ。

 

【気圧】
8月の天気図を例にとると、日本の周りの気圧は1000~10hPa(ヘクトパスカル)。
日本を縦断した台風が970hPaであった。
一方、同じ天候でも標高が100m上がると気圧は10~12hPaほど低下する。
気圧に関しては気候よりもコースの標高に気を付けるべき。エンジンが燃焼するためには酸素が必要だが、標高が高いあるいは気温が高いと、空気に含まれる酸素の量が少ない。
その少ない酸素量に理想的なキャブセッティングを施したとしても、燃焼エネルギーは少ないので、平地あるいは気温が低い時に比べれば、発揮できるパワーは少なくなる。

 

【エンジン負荷】
例えば5,000回転で走ろうとする時、平地では少しスロットルを開けるだけで済む。
しかし登り坂では全開近くまで開けて空気とガソリンの量を増やさないと回転が落ちてしまう。
また低速ギアでは全開にすればすぐに吹き上がるが、トップギアでは回転のピークに達するまでに時間がかかる。これがエンジンの負荷だ。
力が必要な仕事をたくさんさせる時には、ガソリンをたくさん食べさせないとエンジンはちゃんと仕事をしてくれないが、食べ過ぎても効率が落ちる。
「ちょうど良い量のガソリンを食わせる」その見極めがキャブセッテングだ。
ちなみに負荷が大きいのにガソリンを少ししか食べさせないと、それでも頑張ってくれるエンジンは無理がたたって焼き付きなどを起こす。
食いすぎ(濃いめ)は走りが重くなるだけだが、食わせないと(薄め)最悪壊れてしまうことを覚えておいてほしい。
またこれさえ覚えておけば慣れないキャブセッティングでも、エンジンを壊してしまうことはない。

 

 

 

[#05へ続く]

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【クレジット】
Text: Dirt Cool
Illustration: Takuma Kitajima
Special Thanks: Noboru Kosuge

※転載不可

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DBPオンライン店長 鈴木

趣味が高じてオフロード専門店のダートバイクプラスに転職して6年目。オフロードをメインに、モトコンポからリッターマシンまでこれまでに30台のバイクを所有してきました。好きなトレールバイクはTT250R、現在の愛車はKTM350XC-F。好きなツーリングスポットは十和田湖(青森)、諏訪湖・木崎湖(長野)

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