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メカのウンチク話 速く安全に気持ちよく走るためのセッティング 〇キャブセッティング・基礎編#6

5秒速くなれる!?「メカチク」がWEBで復刻!

本記事の内容は、「ダートクール2003 No.5」掲載の「読むだけで5秒速くなれる メカのウンチク話」を、2025年現在の情報に合わせて一部注釈や文章、図の修正を行い掲載しています。

■2003年#05より

速く、そして楽しく走るために欠かせないメカ知識とモトクロッサーの正しい整備方法を紹介するメカのウンチク話。レジェンドメカ小菅登氏の、タメになるウンチク話をたっぷり紹介いたします。

速く安全に気持ち良く走るためのセッティング - キャブセッティング・基礎編

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●各ジェット間の相互関係●

キャブレターはスロットル開度別にガソリン供給を担当しているジェットが違うことは前述の通り。
ここでは各ジェットがどのように影響し合っているか検証しよう。

まずは基礎知識である各ジェットの守備範囲を下の図1で説明しよう。

これを見ると走行中に不具合があるスロットル開度で、どのジェットを交換したらよいか確認できる。
例えばスロットルの開け口ならば1/4開度までを担当するエアスクリューかジェットニードルの太さ(ストレート径)、中開度域付近はジェットニードルのクリップ段数、1/2開度から全開域まではメインジェットという具合である。

基本的にツキや伸びがないと感じるなら薄くアジャスト、パワーやトルク感不足を感じるなら、濃くアジャストする。

開け口でツキが悪いならエアスクリューを開ける。
1/2開度からの吹き上がりに重さを感じるなら、クリップ段数を上げる。
全開にしているのにパワーやトルク不足を感じるなら、メインジェットを濃く。
回転の頭打ちが早いと感じるなら、メインジェットを絞って薄くすれば良い。

ひとつ注意するなら、スロットルの開け始めと言っても、コーナーによっては吹け上がりを感じる時には、すでにスロットルは全開近くまで開いているはずだ。
開け口はあくまで1/4開度以下。全閉から開け直した瞬間だと思っていた方がいいだろう。

このように頭の中を走ることに100%使っていると、スロットル開度を読み間違えることもあるので、セッティングの時は頭の中をクールに保ち、スロットルやエンジンフィーリングを観察する余裕をもって走行してほしい。

さて次は各ジェットの重なり具合がわかる図2を見ながら説明していこう。

今度は低開度、中開度、全開に加えてオーバーレブ領域もセッティングに加える。
他はスロットルの開度だが、オーバーレブ領域だけはエンジン回転そのもの。
パワーピークを過ぎた後の、いわゆる回転の頭打ちと呼ばれるところだ。
そこだけ注意して読んでほしい。また例にあげたバイクは、すでにひと通りキャブセッティングが整っていることとする。

例えばストレートでスロットル全開になっており、エンジン回転はトップエンドまで回っている。
吹き上がりには不満がないが、頭打ちが若干早いようなので「もうひと伸び」が欲しい、と感じているとしよう。まずは全開域の伸びを良くするため、メインジェットを1段絞る。
これでオーバーレブ領域でのガソリンが薄くなり、もうひと伸びしてくれる。

ところがメインジェットを絞ると1/2開度から全開までのガソリン供給も減ってしまう(図3)。
症状としては絞る前と比べて、1/2開度から全開にかけて力不足を感じるはず。

そこでありがちなミスが「オーバーレブの伸びをとるか、中開度からのトルク感をとるか」と選択してしまうこと。
「それならトルク感がある方がシフトアップでカバーできるので、絞らずにオーバーレブは捨てよう」という考え方はセッティングとは言えない。

図2を見て分かる通りメインジェットとニードルのグリップ段数はオーバーラップしている。
そこでメインジェットを絞って、不足した分のガソリンをクリップ段数を1段下げてプラスしてやれば良いのだ。(図4)。これでオーバーレブは伸びるし、中開度からのトルク感が痩せることもない。

しかし今度は1/2開度以下が問題である。(図4)。ニードルのクリップ段数は1/4開度まで影響するので低開度域が濃くなってしまい、1/4開度あたりのツキが悪くなっているはず。
これに対してはエアスクリューを1/4~1/2回転開けて、流入空気を増やしバランスをとれば良い。

このように各ジェットの守備範囲を上手くつないでいけば、全ての開度で不満がなくオーバーレブだけを改善できるはずだ。

さらにこれを最初にメインジェットを絞る段階で、各ジェットへの影響を予測して、一緒にクリップ段数とエアスクリューもアジャストできるようになれば一人前だ。

低開度域、中開度域、全開域、オーバーレブの内、不具合の出ているパートがスタート地点になるわけだが、いずれにしても「ジェットを変えると症状は解決するが、今まで良かった他のパートにも影響が出る」ということを知っておくこと。
何らかの方法で対処しないと全ての開度でセッティングしたことにはならない。

このように各ジェットの相互影響関係を理解すれば、セッティングは一段と深いものになる。

以上がキャブセッティングの基礎編である。これで君のキャブセッティングの悩みも解決したのではないだろうか?

 

【ストレート径】
ミクニのTMX系キャブレターは低開度をジェットニードルのストレート径で調整することを推奨している
それは間違いないのだが、アマチュアライダー、しかもセッティングをこれから試してみたいという人には、
さらにセッティングするべき箇所が増えることになる。
また新たにニードルを揃えるという必要もある(ホンダなど同じストレート径クリップ判断違いもラインナップされている)。
そこでメカチクとしては、低開度域は手軽に調整できるエアスクリューから始めて、経験を積んでレベルアップした
ならば、ジェットニードルの交換に進んでほしいと思う。というわけで今回は低開度域での調整をエアスクリューで
行うことにする。考え方は共通なので、ニードル交換へもそのまま対応できるはずだ。
気温や季節への対応はジェットニードルで対応した方が楽という説もあるので、すでにキャブセッティングを経験している方は、ニードル交換を試してみるのもいいだろう。

 

【オーバーレブ領域】
薄くするとオーバーレブ領域の頭打ちが改善される。と言ってもそもそもオーバーレブとはパワーのピークが
過ぎている領域。あくまでも「もうひと伸び」であり、常用する回転域ではない。オーバーレブで走り続けるのは、いわゆる引っ張り過ぎだ。
ブレーキング開始は目の前なので、シフトアップするには中途半端、という時に欲しい「もうひと伸び」なのだ。
しかしこれで走りのリズムが良くなるならば、コース攻略には有効な手段だと言える。

次回に続く

次回はダートクール2004年1号の「サスセッティング・応用編」の掲載を予定しています。
更新までしばらくお待ちください!

 

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【クレジット】
Text: Dirt Cool
Illustration: Takuma Kitajima
Special Thanks: Noboru Kosuge

※転載不可

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DBPオンライン店長 鈴木

趣味が高じてオフロード専門店のダートバイクプラスに転職して6年目。オフロードをメインに、モトコンポからリッターマシンまでこれまでに30台のバイクを所有してきました。好きなトレールバイクはTT250R、現在の愛車はKTM350XC-F。好きなツーリングスポットは十和田湖(青森)、諏訪湖・木崎湖(長野)

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