3月15日、ダートフリークが冠スポンサーを務める「D.I.D全日本モトクロス選手権シリーズ2026 第1戦 中部大会 ダートフリークカップ」が、三重県いなべ市にあるいなべモータースポーツランドで開催されます。中部地方での開催は、実に30年ぶり。そして、同大会ではFMX(フリースタイルモトクロス)ショーが併催される予定です。
FMXというと、宙を舞うバイク、空中で繰り出される大胆なトリックなど、見る人の目を引く派手なパフォーマンスが特徴です。今回はそんなFMXに焦点を当て、ダートフリークのサポートライダーであり、日本のFMXシーンの第一線に立ち続けている鈴木 “DAICE” 大助(以下:DAICE)にインタビュー。FMXというジャンルの成り立ち、FMXのトリックの種類など、競技としての魅力を紐解いていきます。

今回取材に協力していただいたFMXライダー。左から、
GONTA(鈴木耕太)、WAKA (若林祐哉)、DAICE (鈴木大助)、HTC(高橋仁)、キャッチャー金子(金子博延)、HITOMU(野口陸夢)、YOTA(猪狩遥太)
元全日本モトクロス選手権国際A級ライダー。怪我をきっかけにFMXへと転向し、現在は国内外でショーを行うプロFMXライダーとして活動しています。さらに、FMXのジャンプ台の作成から設営、安全管理、イベント全体の構成までを一貫して手がける「FMX SHOWCASE」を設立。ライダーと裏方、両方の視点を持ちながら、日本のFMXシーンを牽引する第一人者です
FMXの歴史と変遷
1980年代:モトクロスから派生したFMX

フリースタイルモトクロスという名前の通り、FMXはモトクロスから派生して生まれた競技です。振り返ると、その始まりは1980年ごろに遡ると言います。
「FMXは1980年代ごろから始まりました。モトクロスのレースで優勝した人がチェッカーを受ける時に手を挙げたり、マシンをひねったりする動きがFMXの起源と言われています。実際にFMXの技(トリック)としても、そういったアクションが一番難易度が低く、初歩的なものにあたります。
モトクロスはジャンプやコーナー、ストレートが組み合わさったコースを周回して速さを競いますが、FMXはその中のジャンプの要素を抜き出したもの、と考えるとわかりやすいと思います」(DAICE氏)
マシンから手を離す、マシンをひねるなど、原点はシンプルな動きでしたが、そこから様々なトリックが生まれ、今もなお日進月歩で新しくなっていると言います。
「僕がFMXを始めたのは28年前。当時はヒールクリッカーやシートグラブ、スーパーマンといった、今でいう”レギュラートリック”が基本でした。FMXのトリックはどんどん進化しているのですが、FMXの歴史の中で大きな転換点となり、FMXシーンの格を上げたのが、バックフリップというトリックです。
バックフリップ(後ろ回り)は25年前くらいに出てきた技です。このトリックを成功させる海外ライダーを見て、僕もやってみたいと思って練習を始めたのを覚えています。
なぜこの技がFMX界の大きな転換点になったかというと、理由はシンプルで、見ていてその凄さがわかりやすいからです。実際、バイクが一回転するという動きは、見ただけでインパクトが大きいですし、すごいことだとわかりやすいですよね。この技を通してFMXの凄さが誰にでも伝わるようになりましたし、バックフリップを日本のショーでやり始めたらいろんなところに呼んでもらえるようになりました。ライダーの中でも、これができれば世界中の大会やショーに行けるようになる、というプロになれるかなれないかの基準にまでなりました」(DAICE氏)
FMXシーンのピーク、コロナ禍、そして現在

デッドボディー/ライダー:HITOMU
モトクロスから派生し、バックフリップを機に世界へ広まったFMXですが、常に右肩上がりだったわけではありません。
「バックフリップが誕生して以降、今から10年くらい前までは、FMXシーンはかなり盛り上がっていて、ライダーや大会、ショーの数もその頃が一番多かったです。コロナ禍に入ってからその勢いが一気に落ちてしまい、2年ほどイベントが無い状態でしたし、たぶん半分くらいのライダーがFMXを辞めたと思います」
それでも、FMXの魅力は尽きず、続いているとDAICEさんは語ります。
「コロナ禍を経て、現状は段々と良くなってきています。フリースタイルモトクロスは、レースとは大きく違って、たとえば、レースだと30年前と今のチャンピオンのどちらが速いかは比べられませんが、FMXは技の難易度が決まっているので、比べることができます。フィギュアスケートのように、昔は1回転で優勝できたのが、今は4回転が必要というような技術的な進歩がFMXにもあり、その変遷は見ていて面白いです。また、技術だけでなく、それ以外の”表現”という部分は初めてFMXを見る人でも心が動かされると思います。一旦は勢いが落ち着いてしまった部分はありますが、完全に無くならなかったのは、こういう魅力が人を惹きつけるからだと思っていますし、これからも進化し続けていくと思います」(DAICE氏)
何がすごいのか?トリックの実例と見方
常に進化し続けているFMXのトリック。初めて観る方にとっては、「どの技がすごいのか」「何が評価されているのか」が、一度見ただけでは分かりにくいかもしれません。そこで、FMXライダーのDAICE氏の解説とともに、FMXの見方、そして代表的なトリックから最高難易度のトリックまでご紹介します。
難易度別・トリックの実例
基礎的なトリック(レギュラートリック)
ヒールクリッカー

ライダー:YOTA
ポイント
「ヒールクリッカーはハンドルの前で足をカチンと合わせるトリックです。マシンから足を離す基礎的な動きが含まれていて、FMXライダーが最初に取り組む代表的な技です」
中〜上級者向けのトリック
スーパーマンシートグラブ インディー

ライダー:GONTA
トゥイーク

ライダー:GONTA
デッドボディー

ライダー:HITOMU
ロックソリッド

ライダー:キャッチャー金子
ポイント
「グラブトリック(空中でシートを掴む技)や、バートリック(ハンドルを掴んだ状態の技)、フリップトリック(バックフリップ中に行う技)など、空中でマシンから身体を離したり、バイク捻ったり回転しながらやるトリックは中~上級者向けです。バイクと離れる時間がある、というのがやはり難易度が高いポイントで、ここまでくると、ジャンプの高さ・スピード・着地の安定感など、ライダーの技量がはっきりと表れてきます。
ここで紹介した4つのトリック以外にも様々な技があり、名称は細かく分かれています。片足をステップから離してシートの反対側に出すナックナックという技もあり、これはAMAスーパークロス250クラスで7回チャンピオンを獲得したレジェンド、ジェレミー・マクグラスが優勝した時にやった技で、レースシーンの動きがFMXの象徴的なトリックとして受け継がれています」
プロとしての基準になるトリック
ノーハンド バックフリップ

ライダー:HTC

ライダー:HTC
ポイント
「FMXの歴史のなかで大きな転換点となったバックフリップは、難易度の高さはもちろん、先に話した通りプロとしての基準になるトリックです。観客にとっても見ていて迫力を感じる技ですし、会場での盛り上がりは段違いです」
最高難易度トリック
フロントフリップ
ポイント
「フロントフリップ(前回り)を普通に成功させているのは世界で3・4人。常に成功しているライダーは2人しか知りません。それほどに難易度が高いです。
もともとFMXはBMXの技を取り入れる流れがあって、BMXではすでに前回りが存在していたので、FMXでも誰かがやるんじゃないかと注目されていました。また、最初こそフロントフリップ用の特殊なジャンプ台が必要で、そもそもそのジャンプ台を持っているライダーしかできないというトリックだったのですが、ジャンプ台も進化していて、今では一般的なジャンプ台でもトリックを決めることができるようになりました」
難しい技=高評価、ではない
FMXというと、空中で繰り出す派手なトリックに目が行きがちですが、評価されるのはそれだけではありません。
「飛んでいる時のトリックだけでなく、助走や着地のスムーズさも評価されます。世界的な大会、例えばレッドブル・エックスファイターズなどでは、ジャッジ基準も細かく定められていて、コーナーのスムーズさ、着地後の身のこなし、危険性の回避といった点もポイントに含まれています」(DAICE氏)
つまり、FMXでは技の難易度だけでなく、バイクコントロールや流れの美しさも含めた総合力が見られているということ。難しい技を一発決めればいい、という競技ではない点はFMXの奥深さでもあります。
全日本モトクロス選手権と併催、DAICE氏が作るFMXショー

「D.I.D全日本モトクロス選手権シリーズ2026 第1戦 中部大会 ダートフリークカップ」で併催されるFMXショーの主催は、DAICE氏が代表を務める「FMX SHOWCASE」です。どんなきっかけ、どんな想いを持ってFMXショーを行うに至ったのでしょうか。
「いなべの岡田社長とダートフリーク石田社長とは仲が良くて、僕が主催する『ミニバイパニック』というイベントももう5年くらい一緒にやっています。2人とは「いつか全日本モトクロス選手権でFMXショーをやりたい、モトクロスとFMXの2本立てで楽しめる一日を作りたい」という話をしてきたので、それが今回ついに叶いました。バイクを使った野外フェスとしての満足度を上げたいですし、一番盛り上がる全日本モトクロス選手権を目指しています。
会場には移動式のジャンプ台を持っていって、スタートゲートの裏側でFMXショーを行う予定です。さらに音響やDJも取り入れて、普段のレース会場とはまたひと味違う空間を作ろうと進めています」(DAICE氏)
最後に、初めてFMXを見る人へメッセージをいただきました。

ノーフットキャン/ライダーHTC
「初めて見る方にとってはFMXの細かい部分まではわからないかもしれません。なので、まずはトリックを見て、その迫力を楽しんでもらえたらと思います。また、FMXショーはMC(司会)の実況と連携して盛り上がります。トリックについての実況解説もしっかり入りますので、現地では何も考えずに、花火を見るようなイメージで、ライダーが空中に飛んで魅せるトリックを楽しんでもらえればと思います」(DAICE氏)
FMXは派手なパフォーマンスが魅力的ですが、それだけではなく、時間をかけて積み重ねてきた歴史と進化、表現へのこだわりがあります。そして、「どの技が一番すごいか」だけでなく、その技がどんな流れで生まれ、どこが難しいのかを知ることで、FMX観戦は一段と面白くなります。初めて観る方も、ぜひ今回の記事を参考にFMXを楽しんでみてください。